2021.03.12
「ここで息をして」オフィシャルインタビュー

メジャーデビュー第一弾シングルのテーマは、私の中のヒーロー。

eillが息苦しい世界で見つけた、息ができる場所とは!?

——昨年10月にリリースした「片っぽ」は、MVの再生数が130万回を超え、テレビ朝日が2020年に立ち上げた<未来をここからプロジェクト>の一環である「MUSIC STATION」の新企画“Spotlight”でも紹介されるなど、大きな広がりを見せています。楽曲に対する反響や寄せられたコメント等をどう受けとめていますか?

eill:初のバラードだったし、ラブソングもあまり歌ってこなかったですけど、これまでに出した曲に比べて、みんなが自分のことに置き換えて曲を聴いてくれてるんだなっていうことを感じました。SNSなどを通じて、自分の恋愛の話をしてくれたり、“失恋したけどこの曲が居場所になりました”とか、そういう言葉が嬉しかったです。作って良かったなと思いました。

——「片っぽ」は、昨年11月21日に恵比寿LIQUIDROOMで開催した「eill Live Tour 2020」での感情のこもったパフォーマンスも印象的でした。この曲はeillさんにとって、どのような存在の曲になりましたか?

eill:自分を肯定してくれた曲になりました。書く前は、やっぱりR&Bとかシティポップとか、そういう曲じゃないと得意じゃないのかな、みたいな。そのジャンルの壁を越えられないのかなと思ってたところがあったんです。でも、結果的にアレンジも自分がやりたい方向にできたし、バンドメンバーとも話したけど、この曲で1個壁を越えられた。「大丈夫だよ」と言ってくれる存在というか、「そんな怖がらなくていいよ」「そのまま前に進んでいいんだよ」って言ってくれるような曲になりました。次から自分の好きなものをいくらでも出せるなっていう自信がついたし、自分の領域を広げてくれる曲になりました。

——新曲「ここで息をして」は、TVアニメ「東京リベンジャーズ」のエンディング主題歌として書き下ろされた楽曲。アニメのタイアップは初めてですね。

eill:アニメ大好きだから、いつか自分がアニメの主題歌を歌える日をずっと心待ちにしていたんです。私にとってアニソンって神なんですよ。J-POPの中で1番格好いい音楽だと思っているから、夢でした。

——楽曲制作にあたり、原作やアニメのどのような部分に注目しましたか?

eill:原作を読んで、自分が寄り添える場所はヒロインのヒナタちゃんの気持ちかなと思って、彼女を想像して書きました。

——原作は、主人公の花垣武道(タケミチ)が、悪党連合の“東京卍會”によって人生唯一の恋人だった橘日向(ヒナタ)を殺されたと知り、タイムリープして、恋人を救うためと自分の人生のリベンジを開始するストーリーです。

eill:ヒナタちゃんはまっすぐで、ピュアで、愛情にあふれている子。一緒にいたら人のダメなところも全部プラスになっちゃう、みたいなパワーをくれる子なんです。で、漫画を読んだときに、ヒナタちゃんがタケミチの方に振り向くシーンが多いと感じたし、振り向いたときの笑顔がすごくきれいで、人をハッと安心させるようなオーラを持ってる。でも、そんなことあるか!?と思って(笑)。私はちょっと陰に生きてる人間なんで、この笑顔の裏に何があるんだろう? この笑顔を支えているものは何だろう?って考えていったんです。

——「ここで息をして」というタイトルは、どのような思いから付けたんですか?

eill:息がしづらいと最近思っていて。たとえばコロナの影響でライブが簡単になくなっちゃったりして、自分の居場所はどこだ?みたいに必死に探していたんです。本質みたいなものがどんどん見抜かれていくような気がして、見栄を張ったり、強がったりした2020年だった。それですごく疲れたし、そういう意味で息苦しかったんです。そんな中で、自分が本当に息をできる場所はどこだ?って探していったときに、自分が本当にしたいこと、自分が本当に一緒にいたい人、そういう光のある場所が、自分が本当に生きられる場所だなと思って。そういう場所を自分も大切にしたいし、この曲を聴いた人がそういう場所に気づいてくれたらいいなという願いを込めて歌詞を書いたんです。

——息苦しい世界の中で、ヒナタちゃんのまっすぐな愛は、息をできる場所になると。

eill:そうです。いろんなことがあっても、その思いがずっとある限りタケミチくんは絶対に何度も助けに行くし、大きな愛みたいなものがそこにあるからずっと闘い続けられる。そういう思いが息をしている限り、この闘いは終わらないっていう。で、1番の歌詞はヒナタちゃんになったつもりで書いて、2番の歌詞は自分の気持ちとリンクさせたかったので私の思いを書きました。2番の歌詞は私に向けて書いていて、歌詞の“君”は私の中にある光の自分、輝いている自分。それが私にとってのヒーローだって歌ったんです。

——アレンジは、バンドメンバーでもある宮田’レフティ’リョウさんと一緒に練っていったそうですが、どのような曲調/サウンドをめざしたんですか?

eill:二面性とか、真逆とか、そういうところを意識しました。歌詞はヒナタちゃんのまっすぐな思いとか、私の素直な気持ちを描いているけど、曲としてはすごく強がってるとか協調性がないとか、そういう感じにしたかったんです。人ってみんな弱い部分がありながら強がってる。その見栄みたいなものがサウンド、本心が歌詞みたいな。

——外づらと内づら、みたいな。

eill:そうです。あと、隠し味的なスパイスとして、友人のバイクの音が入ってます。

——ミニアルバム「LOVE/LIKE/HATE」収録曲「Into your dream」でも、Kick a Showさんの飼い猫の“半蔵”の鳴き声を効果音として入れてましたよね。

eill:毎回、効果音は私が録ってくるんですけど、今回は原作の漫画が大好きな友達がいて、その子のバイクの音をDメロの最後に入れました。ほとんどわからない感じで入れてるけど、注意して聴いてみて下さい。

——今回のサウンドには荒々しさもありますが、レコーディングはどうでしたか?

eill:今までレコーディングした中で1番難しかったです。メロディの起伏が激しくて、どうしてこんなに難しい曲を作った?って自分に問いただしたい感じ(笑)。

テンポも速いからニュアンスを入れる隙間がなくて。なんとか自分の思いや自分がつけたいニュアンスを出せるように、めっちゃ試行錯誤しながらレコーディングしました。

——MVはどのようなコンセプトで作ったんですか?

eill:(加藤)ヒデジン監督は今回で4回目なんですけど、私から二面性を大事にしてると言う前に、監督が「これは弱いeillと強いeillがいて……」と気づいてくださって。今回、GANMIのメンバーが私の周りで踊ってるんですけど、強いeillは、パンツスーツを着てる方。周りから言い寄られてるけど誰も嫌、私はあなたじゃないとダメ!みたいな、私は私の道を行くみたいな子。弱いeillは、フェミニンな衣装の方で。MV もそういう二面性をコンセプトにして作りました。

——今回の楽曲でメジャーデビューとなります。今後どのような活動をしていきたいと考えていますか?

eill:まだまだ自分の中では見せてない面がいっぱいあると思っているから、そういうものを怖がらずに出して行きたいと思ってます。こないだ女性差別発言が盛んにニュースで取り上げられましたけど、まだまだ女性がフォーカスされていない時代だと思うし、ひとりの人間としても、まだまだ自分の意見を言いづらい世の中だと思うんです。私も2020年は誰かに言われたことを飲み込んだりして、それで後悔したこともたくさんあったんです。

——わきまえた女だったと

eill:そう。でも、「LOVE/LIKE/HATE」ができて、プロデューサーのEIGOさんと話したときに「eillは、それ、やっちゃダメだよ」って言われて。「そこでガマンしたら、別にそれはeillじゃなくてもいいじゃん」「あなたができることは、オンリーワンの自分自身を伝えていくこと」「そういうアーティストだし、そういう人間だから、それを大事にしていこう」と言われて、確かに、と気づいたんです。私はデビューしてからずっと、「ジャンルじゃなくて、eillになりたい」と言い続けてきたし、この先も、eillっていう音楽、eillっていう自由な存在を伝えていきたいなと思います。

インタビュー・文/猪又 孝